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4.AI小説『日中戦争開戦』第4章

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第4章 揺れ動く尖閣と台湾

1.作戦開始の予兆

 香港の雑居ビルを拠点とするハッカーチーム“センター”は、リーダー「ゼロ」の号令一下、かねてから準備を進めてきた大規模サイバー攻撃の最終段階に入っていた。これまでにアメリカや日本の政府機関への攻撃は断続的に行われてきたが、ここにきて“センター”の主導するサイバー作戦は、急激にその標的を日本と台湾へ集中させ始めたのだ。

 香港の深夜。雑居ビル5階のオフィスでは、ゼロがメンバー5人の顔を見回しながら言い放つ。

 「いいか、今回の攻撃はこれまでとは規模が違う。しかも同時多発だ。特に日本と台湾に対しては、我々の手で徹底的に通信インフラを混乱させる。おそらく日本の防衛省や台湾の国防部は頭を抱えることになるだろう。そして、その隙に――中国軍が“行動”を起こす」

 「ラビリンス、マルウェアの仕込みはどうだ?」
 ゼロが問いかけると、暗号技術の担当であるラビリンスが低く答える。

 「既に複数の官庁サーバーにバックドアを設置した。大量の偽装トラフィックを流せば、どの省庁もパンク寸前になるはず。混乱している間に、狙った情報を盗み取る準備もできている」

 「ムック、ソーシャルエンジニアリングは?」
 「大丈夫。台湾側のいくつかの担当者メールアドレスを掴んでる。フィッシングリンクを踏ませれば、そこから深く侵入できる。日本側も同様だ。担当官が夜間勤務中にマルウェア添付メールを受信すれば、チェックが甘くなる可能性が高い」

 ブラストとホイールもまた、ネットワーク攻撃とBotネットの制御準備を進めており、皆それぞれの専門分野で最後の確認作業に余念がない。リーダーのゼロは端末に視線を落としながら、先日から何度もやり取りしている中国本土の上層部――“張飛”(劉志鵬)からのメッセージを再確認していた。

 「……日本と台湾の通信網がパニックになったタイミングを狙い、漁船を装った工作員が尖閣諸島と台湾南方海域に“難破船”を演出する。その救助名目で中国海軍が出動する、と。ずいぶん強引だが、うまく行けば既成事実を積み上げられるってわけか」

 ゼロは小さく笑みを浮かべてメンバーへ告げる。

 「手を緩めるな。最大出力で攻撃を仕掛けるんだ。日本と台湾に混乱を与えることが我々の任務だ。大丈夫、報酬はたっぷり貰える。それに……いざとなれば“張飛”が責任をかぶってくれるさ。俺たちは“民間のハッカー”ってことになってるからな」

 そう言うと、メンバーたちは各自キーボードを叩き、スクリーンには膨大なコードや数値が流れ始める。世界中に散らばるBotネットを起動し、標的となる日本・台湾の政府機関サーバーを一斉に攻撃する準備が整いつつあった。まさに嵐の前の静けさだ。

2.日本を覆う混乱の朝

 日本の防衛省本庁舎。早朝にもかかわらず、異常を知らせるアラート音が鳴り響いていた。大型のスクリーンには、各地の防衛関連ネットワークが正常か否かを示すステータスが表示されているが、いくつもの赤ランプが点灯している。

 「いきなりアクセス数が跳ね上がりました! 膨大なパケットが飛んできています。これはDDoS攻撃ですね!」
 オペレーターの一人が声を上げる。周囲の自衛官やシステム担当者も次々と端末に向かい、対策を講じようとするが、攻撃の勢いは凄まじい。

 程なくして、総務省や外務省、さらに内閣官房関連のサーバーも次々とダウンの報告が入る。普段なら冷静な担当官も、未明からの突然の攻撃に手が回らず、システムが障害を起こすたびに大慌てだ。防衛省の高官は苛立ちを露わにする。

 「なんということだ……。これまでにもサイバー攻撃はあったが、ここまで大規模かつ同時多発的なのは初めてだぞ。犯人はどこだ!? 対策チームを増強しろ!」

 だが犯人を突き止める余裕などない。膨大な偽装アクセスが世界中の踏み台サーバーを経由して押し寄せており、どれが本当の攻撃元かさえ容易にはわからない。まさに“センター”の作戦通りに、日本政府の通信インフラは混乱に陥っていた。

 さらに厄介なことに、一部の端末がマルウェアに感染したとの報告も相次いだ。メールに添付されたファイルを開いてしまった職員がいたのだろう。これは表面上のDDoS攻撃だけでなく、深いレベルでの情報流出リスクもあることを意味している。

 「至急、感染端末を隔離しろ! 統合演習のスケジュールが流出したら大変だぞ!」
 指示が飛び交うが、現場はカオスそのものだ。

 同じ頃、日本国内のインターネット上でも影響が徐々に拡大していた。官公庁のウェブサイトが繋がりにくくなり、国民が各種手続きを行うオンラインサービスにも障害が発生。SNSでは「政府サイトがダウンしている」「これってサイバー攻撃じゃないのか」といった書き込みが急速に拡散され、不安感が広がり始める。

3.台湾に走る衝撃

 ほぼ同時刻、台湾でも同様の現象が起きていた。総統府や行政院(内閣に相当)、国防部が運営するサイトや内部システムがDDoS攻撃を受け、通信が輻輳を起こしている。加えて、一部の省庁でマルウェア感染の疑いが報告され、職員が緊急対応に追われていた。

 台湾の国防部作戦センター。電子地図が表示された大型モニターの前で、若い将校が焦りの表情を浮かべる。
 「将軍、台湾周辺海域で怪しい動きがあります。中国船籍の漁船がいくつか台湾近海を航行しているのですが、その位置報告がバラバラで、海上保安の側が混乱しています。しかも通信が断続的に乱れており、指示をうまく伝えられません」

 「漁船? 単なる違法操業ではないのか?」
 「いえ、どうも“難破した”という救援要請を出しているらしく、詳しい位置を送ってくるのですが、こちらの通信システムが混乱していて正確な座標が把握しづらいんです。海上巡防署(沿岸警備隊)にも連絡が取りづらい状況です」

 指揮官は悪い予感を覚える。サイバー攻撃による通信障害がまるで人為的に仕組まれたようにも思える。台湾海峡や南方海域での中国による示威行動は近年増えていたが、今回のようにサイバー面で同時に攻められれば、対応が大きく遅れる。まさに台湾全体が手足を縛られた格好なのだ。

4.尖閣諸島への不審船接近

 日本時間の午前9時頃。海上保安庁の巡視船が、尖閣諸島近海をパトロールしていると、怪しい通信を受信した。
 「SOS……我々は漁船だ……エンジンが故障して船体が浸水している……救助を求む……」
 乗組員たちは慌てて方位を測定しようとするが、なぜかGPSが不安定で位置情報が合致しない。通信が途中で乱れ、明確な coordinates が取れないのだ。

 司令部と連絡を取ろうにも、官庁系のネットワークに障害が起きているため、通信が繋がりにくい。ようやく繋がったと思えば断片的な情報しか伝えられず、現場の巡視船は独自に推測して現場へ急行するしかない状況だった。

 巡視船が捜索範囲を広げていると、やがて魚釣島付近で小型船を発見。双眼鏡で見れば、漁船とおぼしきボロボロの船体が海面に漂い、乗組員らしき人間が手を振っている。しかし、船体には幾つか妙な点があった。船尾に書かれた文字は擦り落ちて判読不能、漁具の類が見当たらず、乗組員の服装が統一感に欠ける。

 「怪しいな……本当に漁民か?」
 巡視船の隊員が警戒を滲ませるが、人命救助を優先せざるを得ない。国際法と日本の国内法両面で、遭難者を救助する義務があるからだ。

 「よし、とにかく救助しよう。海保としての責務だ」
 隊員は救命ボートを下ろし、相手の船に接近する。乗組員らは中国語でわめきながら「助けてくれ」「船が沈みそうだ」と訴える。彼らの言動が本物かどうか確信が持てないが、目の前で危機に瀕している風にも見える以上、放置はできない。

 「魚釣島に上陸させろ」という声が相手から上がる。しかし、海上保安庁側としては上陸は認めたくない。魚釣島は日本領だ。無闇に外国人を上陸させれば、日本の実効支配が揺らぐと懸念される。しかし、遭難者救助が目的となると拒否もしづらい。そこで巡視船は、いったん艇内に収容して救護する意向を示すが、漁民たちは「もう船はダメだから急いで島に上がりたい」と必死の形相だ。

 この膠着状態の中、通信が再び乱れ、現場から司令部への連絡が途絶えがちになる。さらに悪いことに、中国側からの妨害電波らしきノイズが増大していた。海保の隊員は困惑しながら、やむなく一部の漁民を魚釣島に上陸させてしまう。

5.中国海軍の出現

 その直後、海保の巡視船から見える範囲に、突然中国海軍の軍艦とおぼしきシルエットが姿を現した。大型の駆逐艦ではないが、明らかに軍用船であり、船体には人民解放軍海軍のマークが確認できる。

 「なんだあれは……? 中国海警局の船ではなく、軍艦だと?」
 海保の隊員たちは驚愕し、すぐに警告通信を試みる。

 しかし、中国軍艦は「人命救助のために来た。漁民の救護を優先する」と主張し、既成事実のように魚釣島付近の海域へ接近してくる。海上保安庁の巡視船では、軍艦相手に力で対抗するのは事実上不可能だ。通常、こういった事態であれば海上自衛隊が出動するが、ここでも情報伝達がスムーズに行われていない。

 首都圏の官庁システムは依然としてサイバー攻撃の対応に追われ、海保から防衛省への連絡が断続的にしか届かない。防衛省側も「中国海軍が尖閣周辺にいる」という報告は把握しつつあるが、指示系統が混乱しており、出動命令の決裁がすぐに下りないのだ。

 「こういうときに限って政治家が何も決められない……」
 ある海上自衛隊幹部は苛立ちを隠せずにいた。加えて、時の総理大臣・石波政権は与党の過半数割れの状態で、国会運営に足を引っ張られ、世論の批判も強い。強硬策をとる決断力がなく、官邸から明確な指示が飛んでこないのである。

6.台湾南方海域・七美郷(チーメイシャン)の混乱

 一方、台湾南方の澎湖諸島近海でも、日本の尖閣諸島と似たような状況が起きていた。漁船を装った中国人の工作員が「遭難」と称して救援を要請し、台湾側の巡防署が対応に当たっていた。ところが、通信妨害と混乱の中で、中国海軍が「人道的救援」を口実に姿を現し、台湾の離島の一つである七美郷(チーメイシャン)に上陸を開始しようとしていたのだ。

 「待て、ここは台湾領だ。勝手に上陸は認められない!」
 台湾の沿岸警備隊が警告を発するも、中国艦は強引に接近し、工作員らを小舟で島へ上陸させ始める。島の住民は混乱し、政府に助けを求めるが、既にサイバー攻撃による通信障害で行政当局との連絡がスムーズにいかない。台湾軍が現場へ出動しようにも、命令系統の混乱が生じている。

 さらに、中国海軍の広報が世界向けに「友好と人道支援の証として救助行動を行っている」という発表を行った。これが国際社会に広まると、一見すると中国が“善意”で行動しているかのように映り、台湾政府が強硬策をとれば「人道支援への攻撃」という悪評が立つリスクがある。

 こうして尖閣諸島の魚釣島と台湾・七美郷で、中国海軍が実効支配を狙う危うい状況が進行することになった。

7.JSIA本部の苛立ち

 東京都内の極秘施設――日本秘密捜査局(JSIA)本部。IT担当の**山本伸吉(ノブ)**が、マルチスクリーンに並ぶ攻撃ログをにらみつけながら呻いていた。

 「くそっ、香港からの攻撃がさらに増えてる。とても全部は捌ききれないぞ……。しかも一部の省庁ネットワークがダウンし、通信が完全に麻痺したところもある。これじゃあ防衛省が迅速に対応策を立てようにも無理だ」

 チームリーダーの**栗山秀和(ボス)**は深刻な表情で画面を眺める。
 「中国海軍が尖閣と台湾近海で動きを見せていると、さっき内閣官房から断片的な情報が入った。だが、官邸も大混乱だ。総理石波の指示が曖昧で、与党幹部の間でも意見が割れているらしい。こういうときこそ我々JSIAの出番だが、政治レベルの決定なしに自衛隊を動かすわけにはいかない」

 ベテランの**鈴木一歩(イッチ)**は腕を組んで考え込む。
 「俺たちが裏で動いたところで、中国海軍相手にどうにもならんだろう。やはり軍事行動なら自衛隊だ。しかし、肝心の指揮命令が下りないと自衛隊も下手に動けない……」

 マッチョ(吉田尚也)も苛立ちを隠せない。
 「一方的にやられてるだけじゃないか。せめてここで中国の本当の狙いを暴いて国際世論に訴えるとか、そういうことはできないのか? 周平金や関羽瑠が裏で糸を引いてる証拠なら、ノブがいっぱい握ってるだろう?」

 ノブは苦い表情で首を振る。
 「証拠があっても、それを外交でどう使うかは政治家の判断だ。それが今機能していない。JSIAはあくまで諜報機関……政治を動かすことまではできないのさ」

 そこに**村上宗徳(ムネ)**が駆け込んできて、慌てた口調で報告する。
 「ボス、香港に派遣していたソー(大谷聡平)から連絡です。どうやら“センター”が今回の大規模攻撃を指揮していると確定したみたいです。CIAも同じ見解だとか。でも、センターの拠点を叩くには香港の協力が不可欠……しかし、中国当局が絡んでいる以上、香港警察は動かないでしょう」

 ボスは眉間に深い皺を寄せる。
 「ソーからは何か具体的な提案は?」

 「ええ。彼はCIAと連携してセンターを物理的に制圧する作戦を検討しているとのこと。でもそれをやれば、香港の治安当局と衝突する危険がある。あくまで民間ハッカーが香港にいるという体裁だから、中国政府は『知らぬ存ぜぬ』で通してくるでしょう……」

 ボスは沈黙する。これほどまでに国内外の政治が混乱し、実力行使に移ることが難しい局面は珍しい。イッチやマッチョ、ムネの表情も険しいままだ。

8.中国側の思惑

 同じ頃、中国本土の軍事作戦司令部では、タカ派将軍の**関羽瑠(かん・わる)**が新たな報告を受けていた。南シナ海や香港、台湾海峡での一連の行動を指揮しているのは彼であり、最高指導者・周平金も事実上関の軍事戦略に従っている形だ。

 「将軍、尖閣諸島の魚釣島に漁民を装った工作員が上陸し、海保の警戒はあるものの、通信障害のおかげで自衛隊が動けていません。台湾側の七美郷でも類似の作戦が進行中。海軍は『救援活動』として現地にとどまり続ける見込みです」
 報告書を読み上げる参謀の声に、関は満足げに頷く。

 「よろしい。日本政府は今、サイバー攻撃への対処で手一杯。台湾も同様だ。国際世論向けには『あくまで人命救助のために駆けつけただけ』と言い張れる。現場が既成事実化されれば、あとは中国の領有権を主張しやすくなるだろう」

 関羽瑠のそばには、中国諜報部“張飛”こと劉志鵬の姿もあった。
 「センターの働きは上々ですね。彼らのDDoS攻撃で日台の官庁通信は大混乱、しかも我々と繋がっている証拠は見つかりにくい。周平金総書記もこれで大々的に成果をアピールできましょう。経済政策で失った支持を、『領土回復』の功績で取り戻すのです」

 関は冷徹な笑みを浮かべる。
 「周総書記は結局、私の手駒にすぎん。だが、彼には彼の役割がある。これから香港、台湾、南シナ海の諸島で軍事的優位を築き、いずれは我々が統制する強大な中華圏を完成させるのだ。……それにしてもJSIAやCIAがどう出るか。彼らが裏から妨害してくる可能性は否定できんぞ」

 「ご安心を、将軍。『センター』は既にJSIAやCIAの動向を監視しており、動きがあれば即報告が入ります。もし奴らが香港で我々の拠点を探り当てても、先手を打って潰せばいい。いざとなれば香港警察を使って不法侵入と騒ぎ立てさせれば、国際的にも体裁は保てます」

 関は満足そうに首を縦に振る。すでに彼の中では、この一連の作戦は成功したも同然だった。尖閣と台湾南方の島を足がかりに、中国の海洋進出を既成事実化し、軍事的影響力を拡大する。その裏ではサイバー攻撃による情報戦が展開され、日米台の連携は大きく後手に回っている。まさしく関の思惑が着々と形になりつつあった。

9.自衛隊・出動の遅れ

 日本国内では、尖閣諸島への中国海軍接近を受け、防衛省内で緊急会議が開かれていた。しかし、そこでも通信障害や指示系統の混乱が足かせとなり、海上自衛隊への出動命令を正式に下すタイミングを失っていた。

 「中国海軍の駆逐艦が入ったとすれば、領海侵犯の可能性が高い。だが、まずは官邸の指示を仰がなければ……」
 「官邸は今、サイバー対策で手一杯。総理も判断を迷っているらしい。下手に武力衝突になったらどうするんだ、と……」

 やり取りが空回りする中、現場では海保の巡視船が中国軍艦を睨みつつ、身動きが取れなくなっていた。漁民を装った工作員が魚釣島に上陸した後、中国海軍は「救助活動の一環」と称して島付近に留まりつつ、周辺海域を警戒態勢に置いている。海保にはとても対抗できない。海自の出動が待たれるが、それもままならない。

 結局、この日防衛省が海自へ実働命令を発するまでに数時間がかかり、実際に護衛艦が尖閣近海に到着した頃には、既に中国海軍の態勢は完成されていた。
 「遅すぎる……」
 護衛艦の艦長は苦い表情でそう呟くしかなかった。

10.JSIAの動揺と決意

 JSIA本部では、事態の深刻化を受けて緊急ミーティングが行われていた。ボス(栗山秀和)は電子スクリーンに尖閣付近の地図や台湾南方海域の情勢を映し出し、メンバー全員を前に語る。

 「ご存知のとおり、政府はサイバー攻撃への対応に追われ、尖閣への即時対処ができなかった。台湾も同様の状況だ。結果として、中国海軍が人道支援を口実にそこへ居座り、既成事実を作りつつある。明らかにこれは軍事作戦だ。世界がどう見るかは別として、我々JSIAとしては中国の本当の狙いを暴き、この侵略を阻止する必要がある」

 イッチが問いかける。
 「と言っても、軍を動かせるのは政治家だ。俺たちが何をしようが、大きな軍事衝突を避ける方向にしか働かないだろう。どう阻止する?」

 ボスは低く答える。
 「中国がここまで大胆に動けるのは、サイバー攻撃による混乱と、彼らの諜報活動が成功しているからだ。しかも“センター”と呼ばれるハッカーチームを使って、世界に対して自分たちの関与を曖昧にしている。もし“センター”を壊滅させ、その通信記録や命令書などの証拠を押さえれば、中国軍部や周平金が裏で糸を引いていたことを国際社会に示せるかもしれない」

 ノブが頷く。
 「つまり、“センター”の拠点を叩き潰し、証拠を手に入れるってことだね。サイバー攻撃を根本的に止めるためにも、やはり香港の“センター”本拠地を制圧する必要がある。けど、香港警察や中国当局との衝突は避けられないかもしれない」

 マッチョが意を決したように拳を握る。
 「やるしかないだろ。日本の政治が動けないなら、俺たちJSIAが先に手を打って、流れを変えるしかない」

 村上宗徳(ムネ)もまた声を上げる。
 「ボス、ソーが香港でCIAとの連携を模索してましたよね。今こそその力を借りて、一気に“センター”の本拠を攻撃しませんか?」

 ボスは全員を見渡してから静かにうなずく。
 「そのつもりだ。もはや政治に期待していては尖閣も台湾も失うかもしれん。“センター”がこの状況を生み出している要因だと考えれば、そこを潰すことが最優先だ。――いいか、これはJSIAとしての独断に近い。失敗すれば、我々が処分されるだけでは済まない可能性もある。それでも構わないな?」

 一同は視線を交わし合い、誰もが引く気配を見せない。イッチが静かに言う。
 「俺たちが動かなきゃ誰が動く。政治家に任せていたら手遅れになる。覚悟はできてるさ」

 ボスは力強く頷き、作戦決行を宣言した。これにより、JSIAメンバーは近く香港に向かい、“センター”制圧のための諜報・作戦行動を開始することになる。

11.CIAとJSIAの合意

 香港の外れにある小さなバーで、夜の11時。人影まばらな店内で、ソー(大谷聡平)はCIAのアーロンと密かに会合を持っていた。お互いにウイスキーグラスを傾けながら、声を潜める。

 「日本側が動き始めたか。政府じゃなく、君たちJSIAが主導するんだな?」
 アーロンの問いに、ソーは苦笑いを浮かべながら答える。

 「ええ。正式な承認は得られていない。けど、このままじゃ尖閣も台湾も危うい。中国が軍事的実効支配を既成事実化しつつある以上、時間がないんだ。政治が動かないなら、我々が自分たちの責任で一気にケリをつける。……協力してくれないか?」

 アーロンは苦い顔をした後、小さく頷く。
 「わかった。実は我々CIAも中国の動きを座視してるわけにはいかない。台湾が中国に落とされれば、米国としても戦略上の大ダメージだ。だが、表向きにはまだ大統領命令が下りていない。だから我々は“非公式”にバックアップするにとどまる」

 ソーは「それでいい」と言わんばかりにうなずく。
 「十分助かるよ。そちらが掴んだ“センター”の内部情報や通信ログを共有してほしい。俺たちも香港で物理的に拠点を制圧したいが、相手の戦力や内部構造を詳しく知っておきたい。人数や武器の有無など、予め分かるものは何でも」

 アーロンはスマホを取り出し、暗号化されたファイルをソーへ転送する。
 「ここに我々が入手した“センター”のメンバー動向やフロア配置、カメラ位置などの情報がある。多少推測も混じっているが役立つはずだ。もし突入するなら、深夜帯が最適だろう。奴らの攻撃も夜間にピークを迎えるから、油断している可能性が高い」

 その後、二人は細かい作戦連携や逃走経路の確保などをすり合わせた。CIA側からは多少の人員が秘密裏にサポートすることも示唆されたが、あくまで“表に出ない形”での支援になる。最終的にアーロンは「成功を祈ってる」と言い残し、バーを後にした。

 ソーは残ったウイスキーを一気に飲み干す。視線は鋭く、明日の行動を決意している様子がありありと伝わる。
 (やるしかない――尖閣や台湾を取り戻すためにも、“センター”を潰す)

12.さらなる軍事エスカレーション

 翌朝、世界のニュースは「中国海軍が尖閣近海と台湾南方で人道支援を行っている」と報じ始めていた。中国政府の報道機関も「沈没しかけた漁船を救った英雄的行動」と大々的にアピールし、中国国内では愛国ムードが加熱。反対に日本と台湾のメディアは「これは事実上の領海侵入・武力示威」と警戒感を強めているが、肝心の政府はサイバー攻撃の後処理と混乱で十分な発信ができていない。

 尖閣諸島の魚釣島では、中国海軍が「救助活動」の拠点として仮設テントや物資を搬入し始め、あたかも自国の領土であるかのように行動していた。海保や自衛隊の艦船が周辺で監視しているが、撃退命令はなく、ただ見守るしかない。国際法上、武力行使には厳格な手続きが求められ、政治の判断が不可欠だ。

 同様に台湾の七美郷でも、中国側が救援名目で上陸し、実効支配の兆しを見せつつある。台湾政府の内部で激しい議論が巻き起こるが、サイバー通信障害が続き、意思決定がまとまらないまま時間だけが過ぎていた。

13.作戦前夜――JSIA出撃準備

 日本時間の夜。JSIA本部では、“センター”殲滅作戦に向けた最終ブリーフィングが行われていた。香港へ派遣されるメンバーは、ボスを除く複数名――イッチ(鈴木一歩)、マッチョ(吉田尚也)、ムネ(村上宗徳)、そしてパイロットの佐々木喜朗。IT担当のノブは国内で遠隔サポートを続ける。

 前回香港に潜入していたソー(大谷聡平)は既に現地入りしており、CIAとの連絡を密にしながら作戦の下準備を進めている。日本側から香港へ向かうメンバーは小規模グループに分かれて行動し、目立たぬように入国する予定だ。

 「みんな知ってのとおり、相手は凄腕のハッカーチームと中国諜報員がバックにいる。武装している可能性もある。下手をすれば銃撃戦や警察との衝突も起こるかもしれない。だが、このまま奴らを放置すれば尖閣も台湾も奪われかねない」
 ボス(栗山)がゆっくりと全員を見渡す。

 「イッチ、マッチョ、ムネ。お前たちはソーとの連携を最優先にしてくれ。必要があれば現場判断で突入作戦に移れ。佐々木はガルフストリーム G280を用意していつでも離脱できるようにしておく。ノブは日本からのサイバー支援を頼む」

 全員が「了解!」と答え、一気に士気が高まる。かつて各地でテロリスト制圧などを成し遂げてきた彼らだが、今回は規模が大きい。国家間の戦争を止めるという壮大な使命を背負い、極秘裏に香港の地へ向かおうとしている。

14.夜間フライト

 深夜、成田空港近くの民間用プライベート機スペース。佐々木喜朗が操縦するガルフストリーム G280が滑走路へ向けてタキシングを始めた。機内にはイッチ、マッチョ、ムネが搭乗し、それぞれ装備品の点検を行っている。

 「佐々木さん、到着はいつ頃になりそうですか?」
 ムネが問いかけると、パイロットの佐々木は計器を見つめながら答える。

 「真夜中を回る頃には香港国際空港に着ける。そこからは、それぞれが決められたルートで移動だ。念のため入国審査にはカバーストーリーがあるから大丈夫なはず。だが、油断は禁物だな」

 マッチョがシートベルトを締めつつ、うっすら笑みを浮かべる。
 「香港に着いたら俺たちはすぐにソーのところへ向かう。連中が油断している間に叩き込むのが一番だ」

 イッチは静かに眼を閉じ、「まるで昔の特殊作戦のようだな」と呟く。彼は元・陸上自衛隊の歴戦の勇士であり、実戦経験も豊富だ。昔馴染みのマッチョやムネ、そして若きホープのソーとの連携で、どんな困難でも突破できると信じている。

 加速するジェット機は闇夜に向かって離陸し、日本を後にした。一方で、日本列島や台湾には依然としてサイバー攻撃の嵐が吹き荒れており、防衛や外交は混乱の極みにある。彼らが香港で“センター”を制圧できるか否かが、今後の情勢を大きく左右することになる。

15.戦端が開かれた世界

 こうして、第4章の幕が下りる頃には、既に事実上の日中対立の火蓋は切って落とされていた。尖閣諸島と台湾周辺での“小規模侵攻”とも言える動きは、当面は「人道支援」や「漁民救助」として包み隠されるものの、その本質は明らかな領土紛争のエスカレーションだ。日本も台湾も、有効な打開策を示せないまま、政治的混迷は深まる一方である。

 一方、JSIAの精鋭たちとCIAは、香港に潜む“センター”の拠点を標的に、極秘の突入作戦を準備する。これに成功すればサイバー攻撃の首謀者を一網打尽にできるかもしれない。だが、それを知る中国諜報部“張飛”やタカ派将軍の関羽瑠は、さらなる軍事展開で世界を揺さぶるつもりだ。

 ――次章では、いよいよJSIAと“センター”の直接対決が描かれ、さらに中国軍が潜水艦戦力などを投入し、戦火の危機が一層高まっていくことになる。尖閣諸島と台湾をめぐる緊迫の情勢は、まさに“開戦前夜”とも言える様相を呈し始めるのだった。

第3章 香港潜入 ソーの諜報任務

第5章 夜の香港、交錯する諜報戦

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