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7.AI小説『日中戦争開戦』第7章

AI
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第7章 揺れる海と潜航する影

1.海上危機と「偽情報」の兆し

 尖閣諸島(魚釣島)周辺海域──。前章で日本が国際社会に向けて告発したことで、中国が仕組んだ「遭難漁船」「人道支援」という偽りの大義名分は崩れつつあった。しかしながら、実効支配を狙う中国海軍は強引に島へ駐留し続け、海上自衛隊や海上保安庁が周辺で睨み合う状態が続いている。

 ある晩、海自の護衛艦「まつしま」のソナー室に、異常が伝えられた。周辺に潜航する中国潜水艦と思われる音紋が複数捕捉されたのだが、その位置情報が通常よりもはるかに錯綜している。まるで複数の潜水艦が同時にデコイ(囮信号)を放出し、擬似的な音紋を拡散しているようにも見える。

 「艦長、こちらソナー班。複数の音紋が重なり合い、実際の目標数が把握できません。おそらく中国側が何らかの電子欺瞞を用いている模様です」
 ソナー員が焦りの声を上げる。艦長はすぐさま状況を把握し、幕僚と協議を始める。

 「潜水艦が多方面に散っている可能性もある。あまり深入りすれば不測の衝突が起きかねん。とりあえず艦隊司令部に連絡し、米軍とも情報を共有した上で慎重に動くぞ」
 彼の口調は落ち着いているが、内心は緊迫感に満ちていた。もし中国潜水艦が魚雷を発射してきたらどうなるか。日本側としては防御する以外の選択肢はないが、ひとたび交戦が始まれば全面衝突に発展しかねない。

 そんな中、前線基地に近い基地局から、さらに奇怪な報告が届く。
 「司令、本部に問い合わせたはずの指示内容と異なる命令が現場に通達されています。どうも通信を誰かが横取りし、『攻撃許可』と曲解させるような誤報が流れているのです」

 いわば、「偽情報」を用いた指揮系統の混乱が仕掛けられているのではないかという疑惑だ。これは、中国のサイバー工作がまだ完全には鎮圧されていない証拠かもしれない。実際、「センター」を殲滅しても、中国側には予備のハッカーチームや傭兵的なサイバー部隊が存在する可能性は十分にある。

 海自はもとより、在日米軍も事態を深刻に受け止め、通信のセキュリティ強化に躍起になる。しかし、同時に現場は混乱し、「どこまでが本部指令かわからない」という声が漏れ始める。ここに中国側が一気に付け込み、海域を「偽装攻撃と威嚇行動」で揺さぶり、尖閣の状況をさらに中国有利に持ち込もうと企図しているようだった。

2.台湾・七美郷での発砲事件

 さらに、台湾側でも深刻な出来事が起きた。南方の七美郷(チーメイシャン)に駐留している中国海軍の陸戦隊(海軍歩兵部隊)が、「島内でスパイと疑われる地元民が逃げようとした」との理由で、ついに発砲したという。

 台湾の沿岸警備隊は激昂し、現場に急行しようとするが、既に通信が遮断されており、正確な状況がつかめない。台湾本島の指揮部では、「中国軍が地元住民を射殺した」との報道が飛び交い、人々の怒りと不安が沸騰している。しかし、中国側は「地元民が武装しており、正当防衛の範囲内だった」と主張し、真相は闇の中だ。

 台湾総統府では緊急会議が開かれ、国防部が「強力な反撃」も含めたあらゆる選択肢を検討し始める。だが、台湾軍は中国軍の大規模侵攻が始まれば、自力での防衛は困難と見ており、米軍の介入を強く要請する状態になっていた。

 こうして台湾側でも戦火が起こる寸前の雰囲気が漂い、日台双方の国民が息を詰めるような状況になっている。一方、中国国内では国営メディアが「台湾の過激分子が住民を扇動し、中国軍隊を攻撃した」という逆の報道を流し、ますます両国の溝が深まっていた。

3.JSIA本部の特別作戦会議

 東京都内、JSIA(日本秘密捜査局)本部。深夜にもかかわらず、緊急の作戦会議が開催されていた。参加者はチームリーダーの栗山秀和(ボス)、IT担当の山本伸吉(ノブ)、ベテラン戦闘員の鈴木一歩(イッチ)、筋肉自慢の吉田尚也(マッチョ)、若き村上宗徳(ムネ)、パイロットの佐々木喜朗、そしてまだ肩を負傷中だが回復が進んでいる大谷聡平(ソー)も同席していた。さらに、分析を担当する峰不二子も端末を操作している。

 会議室のスクリーンには、最新の海域マップが投影され、尖閣や台湾付近にびっしりとマークが付けられている。ボスが重い口調で状況を説明する。

 「諸君、いよいよ中国側は最後の一押しに出てきたようだ。潜水艦を軸にした海洋封鎖、そして台湾南方での発砲事件による威嚇。日本と台湾を同時に揺さぶり、米国の出方を探っている」

 ノブがスクロールを続けて、ハッキングで入手した追加情報を提示する。
 「中国の軍事司令部で潜水艦隊の統括を行っているのが、かねてから名前の上がっている**関羽瑠(かん・わる)**将軍です。彼のもとで“張飛”という諜報部隊が暗躍し、偽情報や通信妨害を仕掛けている。どうも“センター”以外にも、複数のハッカー集団を雇っている可能性がありますね」

 マッチョが拳を握りしめる。
 「やっぱりか……。香港で“センター”を潰したくらいじゃ完全には止められないわけだ。奴らはしぶとい」

 ムネは若干意気消沈の色を見せるが、イッチがそれを励ますように静かに言う。
 「だが、一度は流れを変えたんだ。俺たちが手に入れた証拠で世界が動き始めた。米国だって今は艦隊を派遣してるし、国連でも緊急討議が行われる。焦ったのは中国側も同じさ。だからこそ関将軍が強行路線に走ってるわけだ」

 ボスは大きく頷き、改めて全員の顔を見渡す。
 「そこでだ。さっき本部を通じて外務省と防衛省から極秘の打診があった。本土への潜入作戦、いよいよ現実味を帯びてきた。『張飛』こと劉志鵬の指令拠点を叩くという話だ。彼らが通信や偽情報操作を行っている中心地を制圧すれば、中国軍の作戦が大幅に鈍るという見方らしい。米軍の特殊部隊が共同作戦を検討しているそうだ」

 この言葉に、一同の背筋が伸びる。前章でも示唆されていた「本土潜入」が、いよいよ最終手段として動き出すのだ。

 「かなりのリスクがあるが、やるしかない。わが国に正式な許可を与えることは難しいが、極秘の『非公式作戦』としてならゴーサインが出る可能性がある。つまり、成功しても表彰はされないし、失敗すれば責任を誰も負わない。最悪、捕虜や処刑される恐れもある。……それでも行くか?」

 ボスの問いかけに、誰一人として引く者はいなかった。マッチョがすぐに言葉を発する。
 「もちろん行く。尖閣や台湾、そして日本がこれ以上中国軍に好き勝手されてたまるか。俺たちはそのためにJSIAでやってるんだろ?」

 ソーはまだ肩に包帯を巻きながらも口を開く。
 「俺も行きたい。香港で感じたさ……奴らを本気で止めるには、本土の中枢へ乗り込むしかない」

 イッチやムネも黙って肯定の頷きを見せる。峰不二子やノブは現場へは行かないが、後方支援と情報解析でフルサポートする所存だ。佐々木喜朗は、自分がパイロットとしてどのように関わるかを考えながら、静かに決意を固めている。

 ボスは深い息をついて微笑む。
 「では、俺たちJSIAの面々で可能な限りの作戦を練ってみよう。詳しい話は米軍サイドや防衛省の極秘チームとの折衝になるが、とにかく全員が準備に入れ」

4.潜航作戦の火蓋

 その頃、中国海軍は尖閣周辺と台湾南方の海域で、潜水艦を使ったさらなる挑発行為に及んでいた。ある日、海上自衛隊のP-1哨戒機が尖閣近海で中国潜水艦から浮上した潜望鏡を視認し、急ぎ対潜哨戒モードに入る。しかし、潜水艦は高い静粛性を誇る新型であり、そのままスルリと水中深くに沈み、P-1のソナーやブイをかわしてしまう。

 海自艦のソナー員も翻弄される。偽音響をばら撒かれ、本物の潜水艦と区別が難しい。通信網には妨害電波が散布され、防衛省からの指令も届きにくくなっている。

 そうした混乱の中、台湾周辺でも類似の状況が報告される。中国軍はあからさまに局地戦を誘発し、それを口実にさらなる軍事進攻を正当化しようとしているようだった。アメリカ第7艦隊の空母も近海に展開しているが、いまだ先制攻撃は行わず、「警戒と監視を続ける」段階に留まっている。

5.米軍との極秘交渉

 日本では防衛省の地下施設にて、JSIAを代表する栗山秀和(ボス)が、米軍特殊作戦部隊の高官と密談していた。参加者は少人数で、外務省や官邸の一部からも数名が立ち会うが、いずれも名前を公にできない立場の人間ばかりである。

 米軍特殊作戦部隊側の高官(肩書きは伏せられているがシールズやデルタフォースの一部を束ねる立場かもしれない)は、静かな英語で切り出す。
 「We have identified a potential infiltration mission into the Chinese mainland. Our intel suggests that the command center for submarine operations and electronic warfare is located near the coastal city in Fujian Province.(我々は中国本土への潜入ミッションを検討している。潜水艦運用と電子戦を司る司令部が福建省沿岸部のある都市にあるとの情報を得た)」

 ボスはノブが用意した資料を差し出す。
 「Yes, we call it the ‘Zhang Fei’s Headquarter.’ That’s the place where Liu Zhihou (劉志鵬) presumably runs the operations.(我々はそこを“張飛”の本拠地と呼んでいます。劉志鵬が潜水艦運用などの作戦を指揮している可能性が高い)」

 米軍高官は地図を確認し、さらに続ける。
 「We plan to dispatch a small SpecOps team. If your JSIA members can cooperate on intelligence and local infiltration routes, that would be extremely helpful.(我々は少数の特殊部隊を派遣予定だ。君たちJSIAが現地での情報や潜入ルートの確保に協力してくれるなら、非常に助かる)」

 ボスは微笑む。
 「We are ready. We have skilled operatives who can enter discreetly. But if the mission fails, it might spark a full-scale war.(我々も臨戦態勢だ。現地に潜入できる人員はいる。ただ、失敗すれば全面戦争に火を注ぐリスクが高い)」

 米軍側も苦い表情を見せる。
 「Indeed. That’s why this operation is top-secret. Officially, it never happened.(そのとおりだ。だからこそ完全に極秘だし、公には存在しない作戦とされる)」

 こうして日米の機関は、水面下で中国本土司令拠点への奇襲作戦を具体化していく。政治家の表向きの発言とは裏腹に、現場は“もはや時間がない”との認識を共有していた。

6.ソー、再び動く

 作戦の準備は急ピッチで進む。JSIAのメンバーとしては、イッチ(鈴木一歩), マッチョ(吉田尚也), ムネ(村上宗徳), そして傷を抱えつつもどうしても参加を希望する**ソー(大谷聡平)**が候補に挙がる。パイロットの佐々木喜朗は輸送や緊急脱出のサポートを担う見通しだ。

 ソーは肩の痛みがまだ残るが、香港の作戦で自分が得た経験と勘を活かさない手はないと考えている。イッチやマッチョも「無理はするな」と言いつつ、ソーの参加を歓迎するようになっていた。彼らはもう何度も危険な任務を共に乗り越えてきたのだ。

 ノブは後方支援でサイバー面を担うが、こうも言い添える。
 「中国本土での作戦なんて、サイバー妨害が激しいはず。僕も日本からの遠隔サポートだけでは不十分かもしれない。もし可能なら、一部の電子戦装置を持ち込んで現地から妨害電波を逆利用するとか……とにかく色々試す価値はあります」

 ソーはノブに目をやり、微笑む。
 「頼むぞ、ノブ。お前の技術があれば、俺たちがいざというときに脱出するルートや敵の目をかいくぐる方法を作れるはずだ」

 ボスは一同の士気を確認し、深く頷いて言う。
 「では、詳細なプランはこれから米軍とすり合わせる。着手は数日後かもしれんが、いつでも出動できるよう準備せよ。……心してかかれ。これは今までで一番危険なミッションになる」

7.尖閣での小規模衝突

 そうした中、ついに日本と中国が尖閣近海で小規模の武力衝突を起こしてしまう出来事が起こる。きっかけは、海上保安庁の巡視船が魚釣島近くで中国海軍の補給艦に接近を試み、「救助活動」の正当性を問いただそうとしたところ、補給艦側が威嚇射撃を行ったという報告だった。

 正式な発砲命令があったのか、それとも艦長の独断かは不明だが、結果として巡視船は軽微な損害を受け、乗員にも負傷者が出た。これに対し海上保安庁は緊急回避行動を取りつつ、防衛省にも即時通報。海自の護衛艦「ふゆぎり」が現場へ急行し、敵艦に対し「これ以上の武力行使は国際法違反だ」と警告を発する。

 だが、中国海軍は「日本側の船が危険な行動を取ったので止むを得ず警告射撃をした」と主張。現場では護衛艦と中国艦がにらみ合い、互いに砲の向きを変え、いつでも撃てる態勢に入る。まさに一発の弾丸が本格戦争を引き起こしかねない瀬戸際だ。

 この事件は瞬く間に世界へ報じられ、国連安全保障理事会でも緊急協議が開かれることとなる。一方、中国軍は国内向けプロパガンダで「日本が軍事衝突を誘発した」と報じ、国民の対日感情をさらに煽っていた。

8.CIAからの追加情報

 香港支局のCIA担当官アーロン(前章まで登場)が、再びJSIAへ連絡を入れてきた。彼も尖閣近海の衝突を知り、いよいよ大規模な戦争になるのではないかと危惧している。そんな中、アーロンは貴重な新情報を持っていた。

 「我々が米本国の衛星画像を解析したところ、福建省沿岸部のある軍港に潜水艦が次々と集結し、そこに並行して大規模な通信が行われているのを確認した。たぶん『張飛』の司令部が近いんだろう。日米の動きを懸念して、潜水艦運用を強化してるらしい」
 アーロンはそう口早に述べる。

 さらに、**劉志鵬(りゅう・しほう)**とみられる人物が、その軍港近くの施設に度々出入りしているという。これこそが関羽瑠将軍の「潜水艦作戦」を支える中核拠点に違いない。もしここを叩けば、中国軍の潜水艦ネットワークに大打撃を与えられる可能性が高い。

 この連絡を受け、JSIA本部ではボスがマッチョやイッチ、ムネ、そしてソーらを集め、地図を指し示す。
 「ここだ。福建省沿岸のとある軍港の近くに、諜報施設があるらしい。どうやら我々が狙う『張飛』の中枢がここにあるわけだ。米軍特殊部隊とも連携して、この施設を制圧できれば、潜水艦への指令システムがダウンするかもしれない」

 マッチョが拳を握り、「一刻も早く動くべきだ」と息巻く。しかし、イッチが冷静に言う。
 「焦るな。中国本土だぞ。警備は想像以上に厳重だ。陸軍や海軍の基地も密集している可能性がある。どう潜入し、どう破壊・制圧してどう脱出するか、綿密に練らないとみすみす捕まってしまう。成功しても一瞬だ」

 ソーも頷く。
 「香港の雑居ビルとはワケが違う……潜んでいる戦力の規模も桁違いだ。だが、だからこそやる価値がある」

9.決起──ブリーフィング

 数日後、深夜。某航空自衛隊基地の一角で、アメリカの輸送機が停泊していた。その傍らにはJSIAメンバーと、米軍特殊作戦部隊の隊員数名が集結し、最後のブリーフィングを行っている。参加者は総勢十数名。日本側からはイッチ、マッチョ、ムネ、ソーが前線チームとして加わり、佐々木喜朗がパイロット支援を担当。CIAのアーロンも合流していた。

 暗がりの格納庫で、ホワイトボードを使いながら米軍の作戦司令官が英語で説明する。
 「We will infiltrate the Fujian coastline using a low-altitude approach at night. Our primary objective: the comm center run by ‘Liu Zhihou’, known as Zhang Fei. If possible, we sabotage the submarine communication array.(我々は夜間の低空侵入で福建省沿岸に潜入する。主目標は劉志鵬(張飛)の運営する通信センター。可能なら潜水艦通信網を破壊する)」

 続いてJSIAのボスが日本語で補足する。
 「我々は地上への急襲後、施設内のサーバールームや指揮官の部屋を制圧し、通信機器を持ち帰るか破壊する。時間が許せば、指揮官である劉志鵬を拘束する。ただし、敵兵力が多い場合はリスクが大きいので、撤収優先に切り替える可能性もある」

 アーロンが地図上にペンで丸を描く。
 「The target facility is located about 3 kilometers inland from the coast. We’ll land near the shoreline with inflatable boats, then proceed on foot.(目標施設は海岸線から3キロほど内陸にある。ゴムボートで上陸し、徒歩で接近する)」

 イッチやマッチョが真剣な表情で聞き入る。ムネはメモを取りつつ、ソーの肩の具合を気遣うように目線を送る。ソーは無言で頷き、問題ないことを合図している。

 「Alright, let’s finalize our gear.(では装備を最終確認しよう)」
 米軍の隊員たちは最新鋭の小火器や暗視ゴーグル、サプレッサー付きのライフルを準備している。一方JSIAメンバーも、先の香港作戦よりも重装備で、銃器(短機関銃やカービンライフル、ハンドガンなど)や通信機器、爆薬などを厳選して携行することになった。もちろん、どれもシリアル番号や国籍を示す痕跡を消したものである。

 その夜、輸送機は静かに離陸し、南西諸島方面を経て、東シナ海の上空へ向かった。そこから海面すれすれを飛ぶ特殊ルートで中国沿岸近くへ移動し、ゴムボートを空中投下する計画だ。まるで映画のようだが、現実はより一層危険で生々しい。

10.強襲の予兆

 同じ頃、福建省沿岸のある軍港では、中国海軍の潜水艦が次々と出入りを繰り返していた。港の奥まった位置には、巨大なコンクリートのドックがあり、その裏手に厳重なセキュリティフェンスに囲まれた建物がある。そこが“張飛”劉志鵬の拠点に違いない。

 内部では、軍服姿の劉志鵬が部下を叱咤している。香港で“センター”が壊滅して以降、サイバー面での優位がやや崩れたとはいえ、彼にはまだ多くの戦力と資金がある。関羽瑠将軍からは「潜水艦の運用を最大化し、日米の艦隊を足止めせよ」と厳命されている。劉志鵬は自分が関の信頼を失えば即座に粛清される恐怖を抱きつつ、軍事的拡大を継続していた。

 「よろしいか。台湾や日本のメディアでは中国軍の悪辣さを喧伝しているが、我々は断じて引かぬ。もし米軍が浅慮に軍港を攻撃しようとすれば、潜水艦の力で痛撃を与えてやる。関将軍も承認済みだ。……諸君、怯むな」
 彼の演説に、若い軍人たちは賛同の拍手を送る。中国国内の愛国ムードが高まり、誰もが「ここで引いたら国家の恥だ」と意気込んでいるのだ。

 しかし、近づきつつある危機にはまだ気づいていない。夜陰に紛れ、米軍とJSIAの小隊が海上から密かに接近していることを、劉志鵬は知る由もなかった。

11.海上降下

 時刻は深夜2時。波間に低空飛行する輸送機のハッチが開き、暗視ゴーグルを装着した米軍隊員が次々とゴムボートや装備を投下する。続けてJSIAメンバーも、空挺経験のあるイッチやマッチョ、ムネ、そしてソーが降下の準備をする。肩を怪我しているソーはやや不安そうだが、イッチが励ます。

 「気を抜くなよ、ソー。身体の動きを最小限に抑えつつ、無理せず降下するんだ。地上じゃないぶん、逆に衝撃は少ない。ボートに乗り移ればいいだけだ」
 ソーは苦笑しながら頷く。
 「了解です、師匠。……行きます!」

 暗闇に視界を奪われそうになる中、彼らは一斉に機体から飛び出し、パラシュートを開かずに低高度でゴムボートが入ったコンテナを追うように海面へ向かう。実際のところ、これはかなり危険な手法で、速度と高度を誤れば命を落としかねない。

 ゴムボートが海面にバシャリと着水し、続けて特殊装備を施した隊員たちも水中へ突入。パラシュートを使わず、低高度空中投下で直接海に飛び込む形だ。服にはフローティング機能があり、すぐに浮上してボートへ近づくことができる。

 「……よし、無事に降下完了!」
 最初に隊員が叫び、ほかのメンバーも順次ボートへたどり着く。イッチ、マッチョ、ムネも問題なく海面に降り立ち、ゴムボートに上がることに成功する。ソーは肩の痛みで顔を歪めたが、自力でボートへ這い上がる。

 その後、数艇に分乗した一行は、エンジンの音を最小限に抑えながら漆黒の海を進み、中国沿岸へ密かに向かっていった。沖合に待機する米艦などからは、極秘のサポートが行われる予定だが、もし地上での交戦が激化すれば支援は期待できない。

12.海岸への潜入

 上陸ポイントの小さな入り江は、昼間は漁港として機能しているが深夜は人影もまばら。そこを事前にドローンで偵察し、警備が薄いルートを割り出してあった。

 「エンジン停止。オールで最後のアプローチだ」
 米軍隊員が号令をかける。ボートを漕ぎながら、岩場にぶつからぬよう慎重に進む。やがてゴムボートが砂浜に乗り上げ、隊員たちは迅速に降り、ボートを奥へ引き込んで偽装する。

 ソーやマッチョは武器を手に辺りを警戒する。暗視ゴーグル越しに見る海岸は、不気味な静寂に包まれていた。かすかに波音が聞こえるだけで、人の気配は感じられない。

 「よし、散開して前進するぞ。目的地まで3キロ程度の徒歩だ。警戒を怠るな」
 米軍指揮官の指示で一行は二つのチームに分かれ、森や低木の茂みを縫うように行軍を開始する。JSIAメンバーはイッチを中心に、日本語で小声のやり取りをしながら慎重に地形を確かめる。

 ソーは肩の痛みを感じつつも、香港作戦のときと同じ集中力を高めていた。だが、ここは中国本土、しかも軍港が近い。いつ敵の巡回隊に出くわすか分からない。心臓が高鳴るのを抑えながら、彼は一歩ずつ前へ進む。

13.敵の巡回隊

 約1キロほど進んだところで、早速イッチたちのチームは敵の巡回隊と遭遇する。小規模なパトロールで、迷彩服を着た中国兵が3名、ライトを照らしながら歩いていた。どうやら海岸線の警戒を強化しているのだろう。

 「ストップ……」
 イッチが手で合図を出し、一同は木々の陰に身をひそめる。相手が何かの兆候を感じて近づいてきた場合、やむを得ず排除する必要がある。しかし、できれば静かに通り過ぎてほしい。余計な痕跡を残せば作戦全体が崩壊しかねない。

 マッチョが拳を握り、ソーもライフルを構えながら息を殺す。3名の兵士は中国語で雑談する声がかすかに聞こえる。どうやら特に警戒している様子はなく、日常巡回の延長らしい。

 (頼む、通り過ぎてくれ……)
 ソーは心の中で念じる。すると、兵士たちはそのまま少し離れた道を通り過ぎ、やがてライトの明かりが遠ざかっていった。助かった。一行は緊張を解かず、さらに奥へ進む。

14.潜入成功──標的施設を視認

 深夜3時過ぎ。作戦開始から約1時間半をかけ、JSIA・米軍混成チームは目標の施設近くへ到達した。そこは高いフェンスとコンクリート壁で囲まれ、小規模ながら監視タワーが建つ軍用エリア。隣のドックには潜水艦の格納庫らしき建造物が見え、周囲を巡回している兵士の姿もちらほら確認できる。

 チームは建物から200メートルほど離れた茂みに潜み、暗視スコープや熱源センサーを駆使して警備態勢を観察する。すると、正門付近には機関銃を備えた監視所があるほか、敷地内には5~6台の軍用車両が見える。兵士の数は少なくとも30名以上はいそうだ。

 米軍指揮官がヒソヒソ声で相談し、イッチが同時にJSIA側に日本語で説明する。
 「建物は大きく3棟あるようだ。手前が兵舎か事務棟、真ん中が司令部、奥がサーバールームっぽい。劉志鵬(張飛)がいるとすれば、真ん中か奥にいる可能性が高い。二手に分かれて同時突入するのがベストだが、兵力差がある……」

 そこでマッチョが意気込む。
 「少数精鋭で急襲すれば、意外と相手がパニックになって逃げるかもしれない。連中もまさかこの深夜に外国の特殊部隊が現れるとは思ってないだろう」

 ムネは冷静にカメラを拡大し、建物の入口にある電子キーや監視カメラの位置を記録。ソーが肩を動かして大丈夫そうか確認し、うっすらと苦痛に耐えつつも「行けます」と無言でうなずく。イッチはそんなソーの姿に短く目を細める。

 「よし……それじゃ計画どおりに分隊行動を開始する。米軍チームは正門付近を攪乱し、我々JSIAは建物の裏手からサーバールームへ突入だ。通信妨害装置をセットして、奴らが外部へ救援を呼ばないようにしろ」

15.攻撃開始

 作戦は一瞬だった。まず米軍隊員の一部が建物南側から進入し、投擲型の煙幕と閃光弾を同時に発射。ドカンという衝撃音と眩い光が夜空を切り裂き、施設内の警備兵が一斉にそちらを注視する。

 「何事だ!?」「警報を鳴らせ!」
 中国兵たちが慌てて動こうとしたその瞬間、マッチョが麻酔弾付きのグレネードを撃ち込み、さらにイッチもサプレッサー付きライフルで狙撃を行って敵の動きを封じる。ソーとムネは裏手のフェンスを切断し、小さな穴を作って先に潜り込む。

 「よし、こっちから行くぞ!」
 ソーは肩の痛みをこらえつつ、ライフルを握りしめ、建物の裏口へ駆け寄る。ムネが即座にピッキングツールで電子ロックを外し、ドアをこじ開ける。中には数名の兵士がうろたえて銃を構えていたが、サプ付きライフルの一斉射撃で即座に制圧。マッチョらが続いて室内へなだれ込み、上手く包囲しながら麻酔弾で捕縛していく。

 警報が響き渡るが、あまりに唐突な襲撃で敵も連携が取れない。しかも通信妨害装置が仕込まれたため、外部へのSOSがうまく伝わらないようだ。フェンス越しでは何が起きているか把握できずに混乱が拡大する。

 「ムネ、廊下の右側をクリアしろ。イッチ、正面を頼む。マッチョは左を固めてくれ! 俺は奥のドアを押さえる!」
 ソーが指示を飛ばし、一斉に行動。わずかな反撃を試みた兵士たちも閃光弾に混乱し、ほとんど戦意を失っていく。

16.サーバールーム制圧

 施設の深部に位置するサーバールームへ到達すると、そこにはセキュリティドアがあり、最先端の電子ロックが施されていた。ムネがツールを当てて解析を始めるが、相手の反応が早いのか、一瞬で警戒モードに移ってしまい、扉がロックダウンする。

 「くそ、これはハッキングが必要だ!」
 ムネが焦りつつノートPCを広げる。そこにイッチが周囲を警戒し、マッチョとソーが扉を見張る。廊下の奥からは銃声が聞こえ、米軍チームが激しい交戦をしているようだ。

 (時間がない……)
 ソーは肩に痛みを感じながらも、冷静に周りを確認すると、扉の横にある非常用のパネルを見つける。
 「ムネ、そのパネル裏から電源ケーブルを強制的に切れないか? そうすれば一時的にロックが解除されるかもしれない」

 ムネはハッとしてパネルを外す。配線が複雑に張り巡らされているが、香港作戦での経験から配線構造が似ている可能性を推測できる。彼は慌てず慎重にケーブルを確認し、正しい回路を特定。思い切って一部を切断する。

 「……よっし……来た! 今だ、開くぞ!」
 扉のロックがガクンと音を立て、一瞬死んだようになる。ソーがドアを押すと、重々しい音をたてて開く。マッチョがライフルを構えながら素早く突入すると、そこには複数のコンピュータラックが並び、電源ファンの轟音が響く。奥には白衣を着た技術者らしき人物が数名と、兵士が2名ほどいるが、突然の事態に怯えて武器を取り落としていた。

 「全員、床に伏せろ!」
 マッチョの怒号が響き、イッチとムネが部屋に突入。兵士の一人が恐慌状態で拳銃を撃とうとしたが、イッチが即座にサプレッサー付きライフルで足を狙撃。悲鳴を上げて倒れる間に、ムネが武器を蹴り飛ばす。

 「くそっ……」
 倒れた兵士が呻くが、これ以上抵抗の余地はない。他の技術者は一斉に床に伏せている。

 「サーバーを急いで確保だ。ノブの作ったツールを使って、通信ネットワークを制御下に置くんだ」
 ソーが声をかけ、ムネがPCからケーブルを繋ぎ、ウイルスツールを仕掛ける。もし上手くいけば、この施設が潜水艦や中国軍司令部と交信できなくなる上に、内部データを抜き取れるかもしれない。

17.劉志鵬との遭遇

 サーバールームを制圧して数分後、廊下でドタドタと足音が近づいてくる。ソーたちが身構えると、そこに現れたのは劉志鵬(りゅう・しほう)──「張飛」と呼ばれる中国諜報部の幹部その人だった。数名の兵士を従え、銃を手に険しい表情で立ち尽くしている。

 「な、なんだお前たちは……!?」
 劉志鵬は息を荒げ、視線を走らせる。周囲の兵士や技術者が倒れ伏している光景が目に飛び込み、驚愕と怒りが混じった表情になる。

 マッチョが即座に銃を向けるが、劉志鵬も躊躇なく発砲してきた。パン! パン! サーバールーム内に銃声が木霊する。イッチやソーが棚の陰に飛び込み、一瞬のうちに激しい銃撃戦が始まる。ムネはPC操作を中断して身を伏せ、衝撃波から機材を守ろうとする。

 「くそっ……あいつが張飛のボスか!」
 イッチがサプレッサー付きライフルで反撃するが、劉志鵬も部下の兵士と連携して射撃をかいくぐる。狭い室内で流血沙汰が避けられない予感が走る。

 ソーは左手でライフルを支え、右肩の痛みを必死にこらえながら一気に前へ出る。肩をかばいつつも、かつての特別作戦群で培った近接戦闘の技術を駆使し、敵兵士の一人を一閃で殴り倒す。残る兵士はマッチョが殴り倒し、イッチはカバー射撃で相手の頭を上げさせない。

 「ちっ……ここまでか……」
 劉志鵬は罵声を上げながら後退しようとする。しかし、背後にはマッチョが回り込んでおり、逃げ道を塞ぐ形になっていた。劉志鵬は無理やり拳銃を乱射するが、マッチョがすんでのところで身をかわし、反対に劉志鵬の手首を蹴って拳銃を床に落とす。

 「降参しろ。お前の作戦は終わりだ」
 マッチョが低く唸る。しかし、劉志鵬は執念深く懐からナイフを取り出そうとする。そこにソーが左手を伸ばし、関節を極めるように押さえ込む。右肩は使えないが、左手だけでも押さえつけるには十分な腕力がある。

 「ぐああ……!」
 劉志鵬は悲鳴を上げ、体を捻って抵抗するが、イッチがライフルの台尻で首筋を殴り、意識を刈り取る。床に崩れ落ちた彼を見下ろしながら、マッチョとソーが息をつく。

 「やったな……これで張飛の頭は捕らえた」
 ソーが肩の痛みに耐えながら言う。マッチョやイッチも安堵と高揚が入り混じった表情だ。

18.施設破壊と脱出

 ムネが急いでPC操作を再開し、データのコピーとシステム破壊用のプログラムを実行する。ノブが作成した“情報爆弾”が中国軍の通信回線に干渉し、潜水艦へのデータリンクを一時的に断ち切る可能性がある。もし成功すれば、尖閣や台湾での潜水艦行動が大幅に制限されるだろう。

 「よし、転送完了! ついでにサーバーのプログラムを壊しておいた。もう復旧は容易じゃないはず」
 ムネが叫ぶ。室内では煙と焦げ臭い匂いが漂い、照明がちらついている。相当数の警備兵を倒したため、もはや抵抗は見当たらないが、外では米軍チームが激戦を繰り広げているかもしれない。

 「撤収だ!」
 イッチの号令で、ソーたちが劉志鵬を拘束し、部下の兵士たちは麻酔弾や負傷状態で抵抗不能。迅速に施設を離れ、爆薬をいくつか仕掛けて回り、最後に遠隔起爆する手はずだ。時間がない。

 廊下を走り、外に出ると、米軍チームも任務を概ね完了したらしく、何人かが建物の窓に爆薬をセットしている。銃声は一段落しているが、遠くのゲート付近でまだ激しい銃声が響く。彼らは一部の兵士と交戦中なのだろう。

 「捕虜を確保したのか? Good job! We gotta get out now!(よし、捕虜を確保したか。素晴らしい! もう出るぞ!)」
 米軍指揮官が走り寄り、イッチたちを促す。劉志鵬を担ぎ、隊員たちが連携しながら敷地を離れようとする。

 「フェンス沿いに非常口がある。そこから抜ければ森へ続く道だ! ゴムボートの地点まで戻るぞ!」
 皆が一斉に駆け出し、夜闇の中へ消えていく。背後では爆薬が順次起爆し、激しい炎と破壊音が施設を襲う。サーバールームや通信塔が燃え上がり、電源が落ちる。中国軍にはどうすることもできず、混乱と悲鳴が広がる。

19.脱出戦

 施設を抜け出した一行は、再び森や茂みをかいくぐる。途中、パトロール隊との銃撃戦が一度あったが、人数が少なかったため短時間で突破した。問題は、敵が海岸や周辺を完全に封鎖する前にゴムボートまで戻れるかどうかだ。

 ソーは劉志鵬を担ぐ役は他の米軍隊員に譲り、肩をできるだけ痛めないよう注意しながら武器を構える。マッチョも前方を警戒、ムネは後方を警戒し、イッチが全体の動きを統制する。米軍隊員の助けもあり、何とか海岸まで辿り着くことに成功する。

 「エンジンをかけろ、急げ!」
 米軍隊員たちがボートを海に押し戻し、素早く乗り込む。劉志鵬もロープでグルグル巻きにされ、身動きができない状態で押し込まれる。ほどなく一行はエンジンを始動し、先ほどと同じく音を抑えながら闇夜の海へ逃げ出す。

 背後からは遠くでサイレンや銃声の響きが聞こえ、中国軍が必死に追跡の手を打っているようだ。だが、もうそれは及ばない。夜闇の海へと高速で走り出したゴムボートは、やがて洋上で待機する米軍の小型艦艇に収容され、その先の安全水域へ移動する。

 「Mission complete.(ミッション完了)」
 米軍指揮官が安堵の息をつく。イッチやマッチョ、ムネ、ソーも互いに手を合わせ、ほぼ無傷で帰還できたことに胸を撫で下ろす。ソーの肩の痛みは増したが、生きて帰れたことに感謝している。

 こうして中国本土にある「張飛」の司令施設は事実上破壊され、劉志鵬本人まで捕獲された。潜水艦の指令システムは大混乱に陥るだろう。尖閣や台湾の前線では一時的に中国軍の統制が緩むはずだ。

20.日本への朗報と新たな展開

 翌日、東京のJSIA本部に暗号通信が入り、作戦成功と劉志鵬の身柄確保、施設破壊の報が伝えられる。ノブや峰不二子は大喜びで、ボスは静かに目を閉じて「よくやってくれた」と呟く。

 「これで潜水艦作戦が頓挫すれば、尖閣や台湾での押し込みも鈍るかもしれない。国際社会がさらに圧力をかければ、中国側も停戦や撤退を検討せざるを得なくなるだろう」
 ボスはそう期待しつつも、同時に気を引き締める。関羽瑠将軍がこのまま黙っているはずはない。周平金を傀儡に使い、さらなる軍事拡大を仕掛けるかもしれない。

 一方、米軍艦に収容されたイッチたちJSIAメンバーと米軍特殊部隊は、劉志鵬を国際法上の“スパイ”扱いで取り調べる段取りになっていた。中国政府がどう反応するかは不明だが、少なくとも「一部の不法行為者が民間施設を装っていた」として処理されるなら、政治的には日本の関与が表に出ずに済むかもしれない。

 ソーは駆けつけたメディカルチームに改めて治療を受け、しばし安静にすることを余儀なくされる。マッチョやムネも疲労が溜まっており、しばらくは後方で休養が必要だろう。イッチは「俺も歳を取ったな」と苦笑しながらも、表情はどこか誇らしげだった。

 ――こうして、中国の侵略作戦を左右するキーであった潜水艦指令中枢が破壊される。尖閣や台湾での現場指揮は大きな混乱に陥り、侵攻を継続するのが難しくなるだろう。果たして、このまま中国の強硬策は収まるのか、それとも関羽瑠が逆上してさらに凶暴な一手に出るのか。いずれにせよ、次なる大きな動きが近づいていることは確実だ。

21.次なる脅威の前兆

 福建省での施設破壊から数日後、中国は大規模な“軍事演習”を宣言し、各地で部隊を動員してみせた。これは実質的に国内世論を抑え込みつつ、外国を威嚇する狙いがある。かたや尖閣周辺では、中国海軍が部分的に後退したように見えるが、それは一時的な撤収か、別の作戦の準備かはわからない。

 台湾南方でも、一部の中国艦が活動を縮小し、駐留していた陸戦隊の一部が撤退したという報告がある。一方的な撤退なのか、体制再整備なのか、各国は判断に苦慮している。米国や日本、台湾などの情報機関は、関羽瑠が大規模報復を計画している可能性を警戒する。

 国連安保理では、米国や欧州諸国が中国の行動を非難する決議案を準備し、投票を迫っていた。だが、中国は常任理事国として拒否権を持つ。実効性のある制裁を発動するには不十分だ。結局、国際政治も足踏み状態で、近いうちに事態が再び悪化する恐れが拭えない。

 しかも、周平金が倒れずに続けている限り、関羽瑠の軍拡路線がブレーキを失っている現状は変わらない。タカ派勢力が“軍事独裁”を完成させるか、それとも国内改革派がクーデターを起こすか……今後の中国内部にも様々な不確定要素が渦巻いていた。

 JSIAの面々は、自分たちの行動が大きな成果を生み出したとはいえ、まだ戦争の危機が完全に回避されたわけではないと痛感している。

22.次章への布石

 こうして第7章は、世界を震撼させる“小規模武力衝突”が尖閣近海や台湾南方で発生しながらも、JSIAと米軍の中国本土司令部への奇襲作戦が見事に成功し、潜水艦を中心とした中国軍の最重要機能が一時的に崩壊するところで幕を閉じる。

 だが、関羽瑠は未だ健在である。周平金を操りながら、更なる報復や最終的な軍事冒険に打って出る可能性もある。一方、日本や米国、台湾を中心とする国際的包囲網は徐々に形を成し、愛国ムードを煽り立ててきた中国国内でも、経済崩壊の兆しや党内抗争が噴出してきたという噂が絶えない。 果たして戦争は拡大するのか、それとも停戦への道が切り拓かれるのか。JSIAメンバーがこれからどのような最後の戦いに挑むのか、そして物語のタイトル通り「日中戦争開戦」は避けられないのか、いよいよ最終局面へと物語は進んでいくことになる。

第6章 潜水艦の脅威と動乱の海域

第8章 闇に潜む余党と銃火の大地

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