第9章 奪われた情報と決死の暗殺
1.「センター」最後の砦
第8章までの展開において、“センター”の主だった幹部たちは香港や台湾、中国本土でJSIAの手による暗殺または逮捕を受け、ほぼ壊滅状態に近づいていた。しかし、完全には消滅していない可能性が残り、各地で散発するサイバー攻撃が続いていたことも事実だ。
それでも、中国海軍にとって最も信頼を置いていたサイバー司令部が大きく弱体化したことは間違いない。潜水艦司令部を叩かれ、諜報幹部の**劉志鵬(張飛)**も捕獲されてしまったため、中国軍の全体指揮系統は混乱を極めていた。尖閣と台湾の前線では、日本・米国・台湾の国際世論や軍事圧力に押される形で、中国軍艦艇の一部が徐々に後退しつつある。
――いわば、「センター」も中国軍も、大きな痛手を負いながらもまだ崩壊していない。状況は一触即発のまま、ぎりぎりの均衡を保っていた。そこに新たな火種が加わるとすれば、最後に残った“センター”余党が意地を見せて大規模サイバー攻撃や破壊工作を行うか、あるいは関羽瑠将軍がさらなる強硬策を打ち出すか――世界が注目していた。
2.中国海軍の本土引き上げの報
そんな中、世界のニュースは意外な発表を流し始めた。**「中国海軍の一部艦船が尖閣近海や台湾南方から本土へ向けて帰還を始めた」**という報道である。台湾政府も偵察機の報告で、中国艦隊の相当数が領海線まで後退しつつあると確認したという。
「これって、事実上の撤退じゃないか?」
日本政府内にも安堵の声が広がる。メディアは「中国が軍事行動を断念し始めたかもしれない」と報じ、国民の間には少しだけ緊張が和らぐ雰囲気が生まれた。尖閣近海をめぐる激しいにらみ合いは、このまま沈静化していくのだろうか……。
しかし、JSIAのボス(栗山秀和)は楽観視していなかった。彼がノブ(山本伸吉)から伝えられた諜報によれば、実際には「中国艦隊の一部が帰還する一方で、新たな別動隊が整備されている可能性がある」という。さらに陸空軍の動きも活性化しており、むしろ大規模侵攻の布石かもしれない。
「それに、彼らはサイバー面の主力『センター』をほとんど失った。新たに別の専門家を集めているらしいが、短期的には作戦継続が難しいはずだ。だからこそ、一時的に艦隊を引かせ、態勢立て直しを図っているのだろう」
ボスは防衛省関係者にもそう告げ、引き続き厳戒態勢を求めていた。
3.“センター”ついに壊滅
そうした状況で、JSIAと米軍、そして台湾側が水面下で連携し、各地に点在する“センター”の残党を追い詰めた。第8章までに台湾や香港での暗殺作戦を成功させ、一部は失敗したものの、“センター”再結成を阻むには十分だったのだ。
最終的に、中国本土に潜んでいた最後の拠点が米軍のドローン攻撃と地元反体制組織の協力により破壊され、そこにいた技術スタッフも一網打尽になったとの報がもたらされる。これにより、“センター”の主要IT要員は文字通り残っていないか、もしくは既に逮捕・殺害されたという分析が固まった。
「ついに“センター”は完全に壊滅したようだな」
ノブがコンソール画面を見つめながら言う。ボス、イッチ、マッチョ、ムネ、ソーらJSIAメンバーが会議室に集まる。米軍CIA担当のアーロンからの情報も一致しており、もはや“センター”の影響力は消滅したと断定できる。
「これで中国軍はサイバー面での優位を失った。となれば、あれほど強気だった関羽瑠将軍や周平金がどう動くか……」
イッチが眉をひそめる。ボスは応えるように軽く肩をすくめる。
「問題は軍部そのものだ。彼らがどんな作戦を画策しているかは未知数だが、“センター”がいないとなれば大規模サイバー攻撃は難しいはずだ。これで尖閣や台湾への侵攻を止めればいいのだが……」
しかし、ここへきて意外な知らせが舞い込む。
「中国海軍が一部撤退したのは事実ですが、同時に、上海や福建方面の基地に集結し直しているとの分析もあります。『もう一度攻め込むために再編している』との指摘が強いですね」
ノブが鋭い表情で言う。
「しかも、『センター』が潰れた直後に、指揮系統が混乱している痕跡はあるものの、中国軍が別の手段で情報収集しようとしている形跡もある。人海戦術でスパイを送り込むとか、ドローンを大量に使うとか。完全に諦めたわけではありませんよ」
4.敗走する中国海軍とJSIAの銃撃戦
一方、尖閣近海や台湾南方で部分的に退却する中国海軍を、米軍・海自・台湾軍が監視する中、ある事件が起きる。中国海軍の中規模艦艇が急遽針路を変え、本土へ戻ろうとした際に日本の護衛艦と局所的な銃撃(砲撃)戦になったというのだ。これまでのにらみ合いがついに爆発し、船同士が軽微ながらも砲弾を交わし合った形になる。
結果的に大きな損害は出ず、双方が即座に停戦したが、映像が世界中に配信され、「日中の武力衝突が始まった」とセンセーショナルに報じられた。中国海軍は「日本が先に砲撃した」と主張し、日本は「中国艦が接近して威嚇砲撃をしてきたため、やむなく応戦した」と反論。真相は定かではないが、明らかに中国海軍は急ぎ撤退する動きを見せている。
「どうやら中国軍は一時撤退を選んだようだ。サイバー面の情報を失って前線の混乱を収拾できなくなったのかもしれない……」
マッチョがそう推測すると、ムネは「いや、再編かもしれない」と警戒を続ける。
「ともあれ、表面的には中国艦が徐々に本土へ引き上げ始めたのは事実。尖閣にもいた海兵隊が撤収を開始していますね」
こうして表向きには、中国軍が“情報を失って”退却していくかのように見える。尖閣諸島や台湾海峡は、緊張が続きつつも一旦衝突のピークを越えたように感じられた。日本でも「ようやく沈静化か」との期待が高まる。
5.JSIAによる決定的銃撃戦の勝利
しかし、ここで思わぬ機会が訪れる。中国海軍が尖閣から撤退する際、一部の陸戦隊がまだ島に残っているとの情報を海上保安庁がつかむ。どうやら補給不備か命令混乱のせいで取り残された小部隊が存在し、帰還の連絡がうまくいっていないらしい。あるいは故意に残留し、ゲリラ的破壊工作を狙っている可能性もある。
日本政府は急遽、海上保安庁と自衛隊を連携させ、島の捜索に着手。JSIAにも裏から協力要請が出た。政治的に表立って自衛隊を投入しにくい状態のため、**“最後の掃討”**をJSIAが担う構図である。
イッチ、マッチョ、ムネ、そしてソーらは尖閣近海にヘリで向かい、取り残された中国軍の陸戦隊と直接対峙する。そこに海保が後方支援、海自が近海で警戒し、大規模な衝突は避ける形にする。
実際に魚釣島に降り立つと、予想外に中国軍陸戦隊が激しい抵抗を見せ、銃撃戦が起きた。人数としては10名ほどだが、よく訓練された兵士であり、岩陰や山の斜面を使って巧みに反撃してくる。イッチたちは特別作戦群出身の経験をフルに生かし、遮蔽物を活用しながら陣形を組む。
「くそっ……思ったより抵抗が強い!」
マッチョが岩に身を隠しながら叫ぶ。ムネは山側に回り込み、そこから狙撃ポジションを確保。ソーは肩の負傷をかばいつつもサプレッサー付きカービンを握りしめ、イッチの横でカバー射撃を行う。
やがて十数分の戦いで、中国陸戦隊の多くが戦闘不能となる。数名が倒れ、残りも負傷して白旗を掲げるような仕草を見せ始める。イッチたちは最後の警戒をしつつも、降伏を受け入れ、中国軍兵士数名を捕獲する形になった。
こうして尖閣の銃撃戦はJSIAメンバーの活躍で決定的勝利に終わる。これが後の歴史書では「尖閣の最終掃討」と呼ばれることになるが、この時点で中国側はほぼ撤退済みであり、島に残った兵士たちが無念の降伏をしたという構図が世界に伝えられた。
6.捕獲した中国軍戦闘員
JSIAメンバーは島での捜索を続け、数名の中国兵を捕虜として確保した。その中で一人は階級の高い下士官クラスらしく、多少の指揮権を持っていたと推測される。日本側にとっては貴重な情報源になる可能性がある。尖閣や台湾への侵攻計画、さらには本土側の指揮官情報などを聞き出せれば、一気に情勢を有利に運べるかもしれない。
海保や外務省筋では、この捕虜を国際法に基づき正式に取り扱い、外交交渉へ活用すべきという意見もあった。だが、JSIAとしては「時間がない」ことを最優先に考え、強引な情報収集手段を用いる決断を下した。これが、ユーザー様ご要望にもある**「脳読み取り装置」および「洗脳装置」**を使った極秘作戦である。
7.脳読み取り装置の存在
日本政府は公式には否定しているが、JSIAの極秘研究部門では**「MEMS(微小電気機械システム)を利用した脳波解析装置」**を試作しているという噂があった。これは大脳皮質から微弱な電気信号を読み取り、被験者の記憶や思考の断片をデジタル解析するという先端技術。いわゆる“脳読み取り装置”と言われるもので、実用化はまだ先だと思われていた。
しかし、尖閣の捕虜からどうしても早急に情報を得たいという切迫性があり、JSIAはこの技術を試験的に投入する決断を下す。部外者にいっさい知られてはならないトップシークレットであり、違法な人体実験に近い行為ともいえるが、ここまで来たら背に腹はかえられない。
「捕虜に対して脳読み取り装置を使い、本土司令官の居場所や指示系統を割り出す。これは人道上の問題もあるが、時間がないのだ。尖閣や台湾が再び血に染まる前に止めねばならない」
ボスはJSIAメンバーの前で、苦渋の表情ながらもそう表明する。イッチやマッチョ、ソーらは微妙な顔を見せるが、国のためならやむを得ないと判断し、これに協力する意志を示す。
8.脳読み取りによる司令官の所在判明
数日後、JSIAの極秘施設で捕虜となった中国軍下士官**リー(仮名)**が拘束されていた。麻酔を施された状態で、頭部に電極と小型センサーを取り付けられ、脳波を読み取り・解析する試験が始まる。医療スタッフと技術者が周囲に立ち、モニターには脳活動のリアルタイムグラフが映し出される。
当人が抵抗しようにも麻酔と拘束具があるため動けない。さらにJSIAの特殊な薬剤を使い、潜在意識に働きかけて「軍内部の記憶」を呼び起こすよう誘導している。その方法は倫理的に非常にグレーゾーンだが、今の日本政府はそこまで踏み込まざるを得ないと判断していた。
すると、被験者の脳波が強く反応し、とある指揮官のイメージがモニターに投影され始める。名前ははっきりしないが、軍服を着た高位将校らしき人物の姿。さらに施設の外観の記憶が断片的に浮かび上がり、衛星写真と照合した結果、中国本土内陸部の山間地帯にある秘密基地と推定される場所に符合した。
「どうやら関羽瑠将軍の腹心の一人、**陸軍少将の『チュウ(周)』**という男が、尖閣・台湾侵攻の実質的な現場指揮を担っているらしい。そこに大規模な火器や兵器を集積しているとの情報もある」
ノブが解析結果を報告する。スクリーンには中国内陸部の地図と、衛星写真が表示されていた。
「こいつは関羽瑠の最重要司令官かもしれんな。ここを潰せば、軍事行動を根本から失速させる可能性がある」
マッチョが眉を上げる。ムネやソーも同意するが、イッチは困惑した表情を浮かべる。
「だが、どうやってそこに近づく? 前に上海で大規模銃撃戦になったばかりなのに、内陸部の山岳基地なんて踏み込めるのか?」
ボスは腕を組み、淡々と答える。
「そこで洗脳装置を併用するのだ。捕虜となったこの下士官リーを利用し、指揮官のもとへ帰還させる。奴の携行品に細工した爆弾を仕込んでおけば、周少将を暗殺できるかもしれない」
9.洗脳装置の使用
JSIAが秘密裏に研究してきたもうひとつの装置――「心理暗示システム(通称:洗脳装置)」。これは脳に特定の電気刺激を与え、潜在意識に暗示を植え付けることで、行動を強制するという危険な技術だ。通常の催眠術のようなものではなく、科学的な脳波誘導で高い操作性を実現するが、耐性や個人差があり、確実に成功するとは限らない。
「つまり、この下士官リーに『自分は脱出に成功した。指揮官に報告しなければならない』という偽の記憶を刷り込み、爆弾を持って司令部に戻らせるということか……」
ソーは半ば唖然とした口調でつぶやくが、ボスは深刻な顔のまま頷く。
「そうだ。おそらく中国軍の警戒は厳しいが、リーが帰還してきたなら疑われるリスクはそこまで高くないだろう。上官に『尖閣で捕虜になりかけたが脱出した。日本側の情報を持って帰った』と報告すれば、指揮官の周少将が直接面会するかもしれない。その瞬間が好機だ」
「……それで爆弾を起爆し、周少将を暗殺する。まさに自爆テロだな。俺たちはそこに立ち会わずしてターゲットを排除できる」
ムネは声を落として言う。これこそ非情な手段であり、民間人を巻き込む危険もある。だが、周少将が軍事基地にいるなら、非戦闘員がいる可能性は低いとボスは主張し、「軍拡を止めるためのやむを得ない手段だ」と決断した。
10.下士官リーへの暗示
脳読み取り装置に続き、下士官リーは洗脳装置のモニター前に座らされ、再び拘束具と電極を取り付けられた。麻酔と特殊薬剤が使われ、意識が混濁した状態である。技術員が慎重にスイッチを操作し、脳の特定領域へ微弱電流を送る。
JSIAの医療担当官が囁くように暗示文を読み上げる。
「あなたは尖閣で生き延びて、本土へ戻る必要がある。周少将への緊急報告が最優先。軍の機密を守り、日本側の情報を伝えるために、あなたはなんとしても司令部に辿り着く。絶対にバレない――そうだ、何があっても自分の行動に疑問は抱かない……」
リーの瞳は虚ろで、何かを呟くが聞き取れない。医療担当官はさらに暗示を強化し、「帰還の際に支給されたカバンは中身を見てはいけない」「それは大切な軍の端末だ」などと思い込ませる。実際には爆弾が仕込まれたカバンなのだが、リー自身にはその認識を与えず、自分の所有物として自然に持ち続けるよう誘導するのである。
こうした一連の暗示が成功すれば、リーは高い確率で基地へ戻り、周少将と面会する際にも疑いを抱かずカバンを持ち込むはずだ。そこに遠隔起爆装置を仕込めば、暗殺が実行できるという算段である。
11.作戦開始:リーの帰還
数日後、リーは麻酔から覚め、「自分は尖閣から奇跡的に逃げ延びた」という偽記憶を刷り込まれたまま、上海方面へ送り出される。とはいえ、JSIAが直接見送るわけにはいかない。周到な手配人を経由し、闇ルートで中国へ潜入させるのだが、CIAと台湾の協力で複数のダミー経路を使い、追跡を免れるよう工夫が施されている。
「問題は本当に彼が司令官まで行きつくか……、あるいは途中で正気に戻ってしまうのではないか」
ムネが不安そうに言う。イッチは肩をすくめるが、それ以上何も言えない。こうした洗脳作戦は不確定要素が多く、どこかで破綻する危険があるのは承知のうえだ。
一方、中国陸軍は内陸部の山岳基地で、周少将を中心に尖閣と台湾の再侵攻を睨んだ軍備を再構築し始めている。空母打撃群の敗退や潜水艦司令部の破壊を受けて意気消沈している兵士も多いが、周少将は「我々はまだ陸軍が残っている。主力を南方に送り、陸路から台湾を脅かすのだ」とカリスマを発揮していた。
リーがそこへ戻り、周少将に直接報告を求められれば、爆弾を起爆するチャンスが生まれる。JSIAはそのタイミングを待ち構えて、遠隔スイッチを押すつもりだ。もし実行できなければ作戦失敗となるが、それでも試みる価値があると判断している。
12.脳読み取り情報が導く司令部
さらに、リーから読み取った脳データには、周少将が基地の地下に専用室を持っているという記憶も含まれていた。そこは通信設備や兵器計画の資料を保管している場所のようで、陸軍・空軍合同の計画が練られている可能性がある。
「もし爆弾が基地地下を巻き込む規模で爆発すれば、周少将だけでなく軍事計画そのものも破壊できるかもしれない」
ノブが地図と合成した仮想シミュレーションを示す。
「ただし、地下は頑丈に造られている。爆心地がどこになるかによって効果が変わる。リーがどのルートを通るか、わかりませんし……」
ボスは唇を引き結ぶ。
「成功を祈るしかないな。もし周少将が安全な部屋にこもっているなら、計画倒れ。だが、会議や報告を行うために地上階へ出てくる可能性もある。……正直、運頼みだ」
13.最終報告:リーの足取り
数日が経過し、JSIAは緊張の面持ちでリーの動向を追っていた。洗脳によって意識を操作されたリーは、中国国内を移動しながら何度も検問や警戒をかいくぐり、どうやら内陸部の山岳地帯へ近づいているらしい、という断片的な情報がノブの耳に入る。CIA経由の衛星監視でも似たような動きが見られ、基地周辺でリーらしき人物が確認されたとのこと。
「ついに基地に到着したか……」
ムネが息を呑む。JSIAメンバーが固唾を呑んで見守る中、ノブが暗号通信端末でCIAとやり取りを続ける。すぐに劇的な連絡があるわけではないが、数時間後、予兆らしきものが観測される。
「中国軍基地で大規模爆発発生か? 衛星画像で施設の一部が炎上を確認」
CIAのアーロンがそう報じてきた。ほぼ同時刻に、中国国内のSNSでも「山中で大きな爆発が起きた」「軍施設が燃えている」という書き込みが出回り始める。これは中国当局がすぐに検閲して消そうとするが、断片的に世界へ流れていく。
「やったか……?」
マッチョが仲間の顔を見渡す。皆、まだ確証が持てない。あまりに大規模だとすれば、地下まで巻き込むほどの爆発かもしれないが、周少将が本当にそこで死んだかどうかは定かでない。
14.捕虜下士官による「指揮官暗殺」成功の報
その翌日、情報が錯綜するなかで、CIAルートや在中反体制派のネットワークから少しずつ具体的な報せが届く。どうやら軍基地の中枢部が大破し、高位将校数名が死亡または行方不明になっているらしい。複数の目撃証言が「突然、内部から爆発が起き、指揮官らが巻き込まれた」と話している。
さらに、周少将と目される人物が死亡、あるいは重体のまま病院へ搬送される途中で絶命したという噂が広がる。中国政府は公式には沈黙を貫いているが、一部の軍内リーク情報では「陸軍の一大中心人物が自爆テロに遭遇して消された」と囁かれている。
(やはり……リーが洗脳暗示に従い、周少将の近くで爆弾を起爆したのか。)
ソーたちは冷や汗を感じながらも安堵の表情を浮かべる。ボスは静かに目を閉じ、言いづらい言葉を絞り出す。
「……これで、陸軍の指揮系統も大きく崩れるだろう。関羽瑠将軍が新たに誰かを立てるかもしれないが、ここまで軍部の柱を失うと、そう簡単に作戦は進むまい。我々のミッションは成功だ」
あまりにも非道な手段であり、後味は良くない。だが、尖閣や台湾への侵略行為を押しとどめる最後の手段だったのだと、JSIAメンバーは自分たちに言い聞かせていた。こうして**「捕虜に仕掛けた爆弾で中国陸軍司令官を暗殺する」という凄惨な作戦**は見事に成功を収めることとなる。
15.任務完了とそれぞれの思い
周少将が死亡したことで、中国軍内部は大きく揺らぐ。関羽瑠将軍が強権を振るおうにも、陸海空の指揮系統がバラバラになっているうえ、“センター”というサイバー組織も壊滅してしまい、作戦の立て直しが難航する。国内世論も、立て続けに起こる軍の失態や失策に対して不満を募らせ始め、周平金総書記の威光はさらに失墜していく。
結果的に、中国海軍は大々的な侵攻計画を継続する意欲を失い、尖閣・台湾から本格的に引き上げざるを得なくなる。 多くの艦船や部隊が本土へ帰還し、途中でいくつかの小規模衝突があったものの、最終的には「撤収完了」として前線から消えていった。
JSIAにとってこれは大きな勝利であり、「センター」壊滅と指揮官暗殺によって中国軍の情報網が崩壊したことが撤退の大きな要因となった。日本政府は表向き「中国側が自主的に撤退した」と発表し、尖閣と台湾をめぐる軍事衝突は一応の収束を迎える。国際社会もこの結果を歓迎し、米国や欧州諸国は中国の脅威が弱まったことに安堵を示した。
しかし、JSIAメンバーの胸には複雑な思いが残る。暗殺、洗脳、爆弾テロ――このような非合法かつ非道徳的な手段をとった事実を公にできるわけもなく、歴史の闇に葬られるしかない。イッチやマッチョ、ムネ、ソーらは互いに顔を見合わせ、「これが最善だったのだろうか」と自問する日々を過ごすことになる。
16.尖閣の静寂と台湾の安堵
幾週間かの時を経て、尖閣諸島周辺は再び静けさを取り戻した。海上保安庁が巡視を続け、漁船や密漁船が近づかないよう警戒している。自衛隊も引き続きバックアップをしているが、目立った紛争は起こらなくなった。
台湾でも、中国軍が撤退し、沿岸警備隊や国軍が島嶼部を再整備している。住民たちは被害からの復興に取り組んでおり、各国の支援を受けながら少しずつ生活を取り戻していた。台湾総統は国際社会に改めて平和への協力を呼びかけ、**「台湾有事」**がひとまず遠のいた状況を喜び合う。
日本国内では、首相官邸が「中国側の侵攻が回避されたのは外交努力の成果」とアピールし、与党の支持率が上昇。マスコミや世論は「戦争が回避できてよかった」と安心感を抱きつつ、一部の評論家は「裏で何が起きたのか」と疑問を呈する。だが真相は語られることなく、JSIAは水面下の活動を続けるだけだ。
17.捕虜たちの行方
尖閣で捕虜となった兵士のうち、リー以外の者は正規の捕虜として外務省主導で扱われ、中国政府と交渉の末に本国へ返還されることになる。だが、そのうち何名かは帰国後に処刑されたとの噂が広まる。関羽瑠や軍内部のタカ派が「敗北の責任を押し付けた」という説もあるが、公式には定かではない。
リーに関しては、爆弾テロを起こした張本人だが、本人は洗脳された状態で自爆したと見られるため、もはや生存もしていない。中国側の捜査は表向き「テロリストの仕業」で済まされるが、実質的には真相が軍上層部に握り潰されている模様だ。
18.JSIA本部──最後の作戦報告
日本政府が「尖閣問題の沈静化」を宣言して数日後、JSIAの地下本部ではボスがメンバーを集め、今般の一連の作戦終了を告げる場が設けられた。そこでは、「センター」完全壊滅および中国軍司令官暗殺の成功により、侵略を食い止めた事実が報告される。
ボスはメンバー全員に目を配りつつ、重々しい声で語る。
「みんな、本当にお疲れだった。尖閣と台湾をめぐる戦争は、我々の手で回避したと言っても過言ではない。もちろん、政治や国際社会の動きも大きかったが、“センター”を潰さなければこうはならなかった」
イッチやマッチョ、ムネ、ソー、ノブ、そしてパイロットの佐々木喜朗、分析官の峰不二子が真剣な表情で聞いている。ボスは続ける。
「ただし、これらの作戦は極めて非公表かつ、違法スレスレの手段だった。暗殺、洗脳、爆弾テロ……どれも本来あってはならない行為だ。我々は国家を守るために汚れ役を請け負ったが、決して誇らしいことではない。忘れないでくれ」
メンバーたちも複雑な感情を抱えるが、ボスの言葉に何とか頷く。国民が平和に暮らせるなら、それでよい――そう自分たちに言い聞かせるしかないのだ。
19.“センター”壊滅の余波
世界的にも、中国軍がサイバー攻撃能力を失ったことが鮮明となり、インターネット経済や国際通信が徐々に落ち着きを取り戻しつつある。米国や欧州は中国に対する制裁を協議し始め、中国国内の経済はさらに悪化の一途をたどる。国内では周平金総書記や関羽瑠将軍への批判が高まり、党内抗争の激化が噂されている。
「いずれ中国がどうなるかは分からないが、少なくとも当面、尖閣や台湾へ強引に攻め込む力は残っていないだろう。……かなりの犠牲を払い、汚い手段を使ってしまったが、戦争を避けた代償と考えるしかない」
イッチがそう言いながら苦い笑みを浮かべる。マッチョやムネも同様だ。
20.最後の締めくくり──日本の安堵
世界が再び落ち着きを取り戻すにつれて、日本国内でも「あの騒乱は何だったのか」と振り返る声が出る。尖閣に取り残された陸戦隊との銃撃戦があったことは公になっているが、その詳細は伏せられ、政治家たちは「無事に平和を守った」とだけ発表する。国民は大きな被害が少なかったことに安堵し、深く追及しようとはしない。
JSIAはさらなる極秘作戦を解除され、しばしの休息期間を得る。ソーは肩の治療に専念し、イッチは次のミッションまで穏やかに過ごす予定だ。マッチョとムネは海外の訓練に呼ばれ、佐々木はガルフストリームのメンテナンスを行う。ノブと峰不二子は国内システムの整備を続け、時折ボスに呼ばれて分析を手伝う。
こうして、「センター」の壊滅と中国軍の情報喪失により、当面は尖閣・台湾への侵攻が大規模に再開される恐れは消えた。しかし、本当に日中の対立が終わったわけではない。関羽瑠将軍がまだ生きている限り、いつまた強硬路線が噴き出すか分からないのだ。
だが、少なくとも当面は平穏が訪れる。JSIAはそれを「任務完了」と呼び、膨大な報告書を闇に閉ざすことになる。国民が知らないところで、多くの血と涙が流れ、数えきれない陰謀と暗殺が繰り広げられた。その結末がこうして訪れたのだ。
21.エピローグ──終わりなき戦い
JSIA本部の深夜。ボスは一人、資料室で“センター”関連の記録をシュレッダーにかけながら、静かに息を吐く。香港作戦、台湾、上海、そして尖閣……多くの仲間が危険にさらされ、命を落としかねなかった。運よく誰も殉職しなかったのは奇跡に近い。
「これでよかったのだろうか。……誰にも誇れないやり方だったが、国家を守るためには避けられなかったのかもしれん」
ボスは記録を破棄しながら誰にともなく呟く。思えば、日本が国際社会の一員として生きるには、きれいごとでは済まされない現実がある。表立った外交や軍事力を超えた、「裏の力」を行使しなければならないときがあるのだ。
やがて、破砕された紙の山を見下ろしながら、ボスはつぶやく。
「……日中戦争。辛うじて回避できたかもしれない。だが、世界が安定したわけじゃない。次の危機は必ず訪れる。JSIAはそれまでにもっと強く、もっと狡猾にならねばならないのかもな……」
この言葉を最後に、JSIAは一連の任務を終了し、メンバーには束の間の休暇が与えられる。日中間の軍事危機は収まり、中国海軍は情報を失って本土へ引き上げ、サイバー組織“センター”も完全に崩壊した。今のところ、大規模侵攻の気配は見られない。
長きにわたる死闘はここに完結したといえる。だが、ボスの胸には不穏な予感が残っていた。周平金がなお最高指導者の座にあり、関羽瑠将軍が控えている限り、次なる衝突がいつ起こっても不思議ではないのだ。それこそが「日中戦争開戦」の火種となるやもしれない――。 こうして、JSIAの勇敢なメンバーが賭けた作戦の末に、尖閣と台湾は救われ、中国軍は一旦退却の道を選ぶ。しかし、それは儚いバランスの上に成り立つ「危うい平和」でもある。暗殺と爆破が生んだ一時の安寧、その代償は重く、いつか歴史がその事実を暴く日が来るのかもしれない……。
コメント